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伊藤幸久の妄想特急

彫刻家、伊藤幸久の日々と妄想の物語。

第1章 La fatigue -疲労-

2009個展展示風景1

 「桜子ちゃん…。また同じクラスだね。」

 中学の入学式の翌日、佑子は教室で桜子に声をかけた。

 二人は小学5、6年生の頃から同じクラスだったが佑子が桜子に声をかけたのは殆ど初めての事だった。いや、自分から人に声をかけた事自体初めての事かもしれない、そう感じるほど佑子から人に声をかけることは珍しい行動であった。佑子に話しかけられた桜子は初め、きょとんとしていた。しかし、ほどなく応えてくれた。

「また同じクラスだね。よろしくね。」

佑子の不自然な様子には気づいていないようだった。あるいは気づかないふりをしてくれたのかもしれない。


 佑子は小学5年生の時から桜子に注目していた。当時の桜子は、ぽっちゃりとした体形だったが、それとは裏腹に、クールで落ち着いた雰囲気を醸し出していた。5年生の夏休みが明け、2学期に入ると、桜子は突如ロリータの服装に身を固め登校して来た。小学校でロリータという格好は相当に浮いた存在であった。

しかし、桜子は何事も無かったかのように堂々としていた。クラスで浮くどころか、そのファッションは、桜子の見た目と性格との開きをさらに増大させ、その差が逆に桜子の存在をカリスマの域にまで押し上げていた。少なくとも当時の佑子にはそう感じられた。佑子は自分が求めている何かを桜子が持っている気がしていた。桜子に対する佑子の気持ちは一種の憧れであった。しかし、当時の佑子は桜子に自ら近づく事はしなかった。

 中学に入り勇気を出して桜子に話しかけて以来、佑子と桜子はよく話をするようになった。中1の2学期に入り、席替えで佑子の席は桜子の真後ろになった。その頃からだろうか、佑子と桜子は二人きりでよく遊ぶようになった。お互いの家にも行くようになったし、夜は電話で長話しをした。
L'admi

 次第に佑子も桜子の影響でロリータのアイテムを集めだすようになった。

初めはクマのぬいぐるみ。
くま

次にエナメルの靴….
ハイヒール

一見してはロリータとはバレない程度にロリータグッズを身につけ、集めていった。
靴レリーフ


それを持つ事で佑子は桜子に近づけた気がした
くまレリーフ


 その後、中学三年間二人は同じクラスだった。しかし、卒業を迎え、佑子は公立の高校に、桜子は私立の高校に行くことになった。中学卒業後、殆ど二人は会わなくなった。

 高校に入り佑子のロリータ化は加速していった。中学まではちょっとした小物を持ち、服装もせいぜいボリュームの控えめなフリフリのスカートをはく程度で収まっていたが、高校生になってからは、髪を金に染め、巻き毛をし、高いドレスも貯金を崩して買った。高1の秋口には、もう誰が見ても見まごう事も無い完全なロリータになっていた。
La fatigue flat2

 佑子の高校は共学の公立校だったが、自由、自主、自立がモットーで、生徒は私服で通学している。佑子みたいな奇抜な格好で登校しても先生に咎められる事はない、そんな学校だ。
 しかしながら、女子の制服だけは存在しており、希望者だけが購入していた。大昔、女学校だったころの名残である。女子の殆どが普段私服で登校している。それでも、その多くが制服も購入していた。そんな彼女たちは時折、制服で登校して来るのだが、決まってそれは友人ら数人で申し合わせて、同じ日に、一斉に制服を着て学校に来る。その日は、さながら女子高生の仮装をする日である。

 時折行われるその催しが、佑子は気に入らなかった。この高校の自由、自主、自立という校風は気に入っていた。それ故に女子高生の集団心理のようなものを、この校内に持ち込んで欲しくはなかった。その不満の反動からか佑子のロリータ化はさらに拍車がかかった。

 私服校だけに、佑子の他にもロリータの娘はちらほら見受けられた。それでも佑子はその中で一際異彩を放っていた。次第に佑子の周りには他のロリータの娘が集まるようになり、ロリータの友達も増えていった。佑子は彼女たちから一目置かれていた。まるでカリスマのようだ。桜子みたいに…。
 佑子は一見、目指した存在に近づいた。しかし、満たされることは決してなかった。佑子が憧れたものはこんなものじゃなかった。「私が桜子の中に感じたものはこんなものじゃない。」佑子はそのことで思い悩むようになった。次第にロリータの友達とも会わなくなっていった。高校1年の2学期、9月のことである。来月、佑子は17才になる。

 去年買った日傘も、
落ちた傘

桜子に憧れて初めて買ったクマのぬいぐるみも
落ちた熊

放り出した。


佑子には疲れがたまっていた。鞄を持つ手にも力が入らなかった。
落ちた鞄

疲れた佑子の頭の中を埋め尽くすのは桜子の事ばかりであった。佑子は桜子に会いたかった。でもこんな姿で会いたくはなかった。桜子の事を考えながら自分が桜子の中に見たものが何か、次第に分かってきた。それは桜子が「孤高」であった事だ。当時の佑子には、桜子が孤高の存在に思えたのだ。佑子は孤高の存在に憧れ、そうなりたかった。佑子が最も求めたものはそれであった。

 佑子はこのままではいけないと思った。でも、どうしたら良いのかは分からない、どうすれば自分も孤高の存在になれるのか。前進したくても、踏み出す次の一歩をどこに着地させれば良いか、その着地点が分からずにいた。

La fatigue3

第2章 Charismaに続く…。


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コメント

コメントありがとう◎
文章があった方が入りやすいと言われることは、数年前なら嫌がってたからかもしれないけれど、
今はそうではありません。そもそも、文章を示すことでより自分の世界観を理解してもらうために
この記事を書きました。
彫刻制作後、文章化してみて、まだこれだけ自分の世界観に奥行きが残ってるんだと、
自分自身、作品をより理解する機会に恵まれた気がします。
2010-11-22 Mon 14:57 | URL | itotin [ 編集 ]
文章化、よいですね。
文章と彫刻の両立(?)は、誰しもができるわけではないと思うので、やはりオリジナリティもだし、こちらから捉えることのできる世界が広がる気がしました。
あと、こういう言い方は造り手さんにとっては嫌かもしれませんが、いわゆる物を造らない自分のような者からみると、「入りやすい」というか「理解しやすい」なと思いました。
2010-11-22 Mon 02:33 | URL | ZUNDA [ 編集 ]

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