『黙って耐える子供を見た。』2010-12-04 Sat 00:08
![]() 「忍耐」(H75×W25×D30/陶,水彩着色,電球,木の椅子/2008) この作品には実在のモデルがいる。 私が彼と出会ったのは2008年2月のこと。 某国立大学の大学院入試の帰り、 共に試験を受けた大学の友人Tが観たい展覧会があるというので、 T と私、そしてもう一人の大学の友人 I と3人共だって、 その展覧会が催されているギャラリーへと向かった。 私たちは上野駅から地下鉄に乗り清澄白河駅で下車し、 ギャラリー方面の出口階段へと向かった。 出口階段に差しかかる手前にはトイレがあった。 そのトイレの前には大人のひざの高さほどの縁石があり、 そこに彼が座っていた。 年の頃は3歳ほど、フード付きのコートを身にまといフードを頭にすっぽりとかぶっていた。 フードにはクマの耳と目と鼻が付いていて、彼は熊の威を借りそこに佇んでいるようだった。 彼の横を昼下がりのマダム3人組が通りかかった。 彼女達は声を合わせ、「あら!かわいいわね~!」 と彼に対して大きなリアクションをとりながら通り過ぎる。 彼女らの行動に彼はピクリとも反応しない。 身を屈め、両の拳をギュッとにぎり、空にあるただ一点を焦点も合わさずに見ていた。 彼は意識を自身の中へと集中し、ただひたすらにその状況が過ぎるのを耐えているようだった。 彼はあの時、あの場所で、社会の中にただ一人取り残された状況にあった。 あの時、彼の周りは未知への恐怖で満ち溢れていたことだろう。 しかし、彼にはそれらの恐怖を払拭する術はない。 それでも彼は、泣きもせず、喚きもせず、 ただひたすらに耐え続けていた。 ![]() その後、トイレの中から彼の父親らしき人物が出てきた。 彼はその人物に駆け寄り黙って手を繋いだ‥。 私が彼を目撃したのは、ものの30秒。 その間に一つのドラマを見たようだった。 小さな子供でもああやって不安と戦っている。 自分ももっと辛抱してがんばらないといけない。 そんな思いを残してくれた彼との出会いであった。 その気持ちを忘れないように 本作「忍耐」を制作するに至った訳である。 余談ではあるが、 その後、私たちは 出口階段手前の掲示板に目的の展覧会のポスターを見つけ、 会期が1週間後であることを確認し、 駅から外に出ることも無く、清澄白河駅を後にした。 スポンサーサイト
|
| ホーム |
|