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伊藤幸久の妄想特急

彫刻家、伊藤幸久の日々と妄想の物語。

『黙って耐える子供を見た。』

101018-忍耐左斜め
「忍耐」(H75×W25×D30/陶,水彩着色,電球,木の椅子/2008)


この作品には実在のモデルがいる。


私が彼と出会ったのは2008年2月のこと。

某国立大学の大学院入試の帰り、
共に試験を受けた大学の友人Tが観たい展覧会があるというので、

T と私、そしてもう一人の大学の友人 I と3人共だって、
その展覧会が催されているギャラリーへと向かった。

私たちは上野駅から地下鉄に乗り清澄白河駅で下車し、
ギャラリー方面の出口階段へと向かった。

出口階段に差しかかる手前にはトイレがあった。
そのトイレの前には大人のひざの高さほどの縁石があり、
そこに彼が座っていた。

年の頃は3歳ほど、フード付きのコートを身にまといフードを頭にすっぽりとかぶっていた。
フードにはクマの耳と目と鼻が付いていて、彼は熊の威を借りそこに佇んでいるようだった。

彼の横を昼下がりのマダム3人組が通りかかった。
彼女達は声を合わせ、「あら!かわいいわね~!」
と彼に対して大きなリアクションをとりながら通り過ぎる。

彼女らの行動に彼はピクリとも反応しない。
身を屈め、両の拳をギュッとにぎり、空にあるただ一点を焦点も合わさずに見ていた。
彼は意識を自身の中へと集中し、ただひたすらにその状況が過ぎるのを耐えているようだった。

彼はあの時、あの場所で、社会の中にただ一人取り残された状況にあった。
あの時、彼の周りは未知への恐怖で満ち溢れていたことだろう。
しかし、彼にはそれらの恐怖を払拭する術はない。

それでも彼は、泣きもせず、喚きもせず、

ただひたすらに耐え続けていた。

101018忍耐

その後、トイレの中から彼の父親らしき人物が出てきた。
彼はその人物に駆け寄り黙って手を繋いだ‥。

私が彼を目撃したのは、ものの30秒。
その間に一つのドラマを見たようだった。

小さな子供でもああやって不安と戦っている。
自分ももっと辛抱してがんばらないといけない。
そんな思いを残してくれた彼との出会いであった。

その気持ちを忘れないように
本作「忍耐」を制作するに至った訳である。


余談ではあるが、

その後、私たちは
出口階段手前の掲示板に目的の展覧会のポスターを見つけ、
会期が1週間後であることを確認し、
駅から外に出ることも無く、清澄白河駅を後にした。

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テーマ:art・芸術・美術 - ジャンル:学問・文化・芸術

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